ひび、これ、しんか

ニワカオタクな理系院生の雑記

lncRNAから構成される核ストレス小体はSRタンパク質のリン酸化を通してスプライシングを制御する

論文リンク : 

www.biorxiv.org

 

動物の体を構成する細胞の核の中には、ゲノムDNAがタンパク質との複合体 (クロマチン) として収められている。ゲノムDNAは、タンパク質やRNAといった細胞を構成するメインとなる部品の設計図と言える。とっても大事である。とっても大事なので、細胞が分裂する時、クロマチンは2つの娘細胞のもとに正確に引っ張られ、分配される必要がある。この取っ手となる部分がセントロメアである。

 

セントロメアは、その重要な機能の割には動物種ごとに多様である。ヒト特異的なセントロメアであるHSAT IIIは、熱や浸透圧ストレスに際してlncRNA (long non-coding RNA, タンパク質をコードしていない長鎖RNA) を発現し、核内に核ストレスボディ (nuclear stress body, nSB) を構築することが以前から知られていた。今回筆者らは、nSBがスプライシング制御因子であるSRタンパク質の脱リン酸化の”反応場”として働き、様々な遺伝子の発現を制御することを明らかとした。

 

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最近、とってもホットなLLPS (liquid-liquid phase separation, 液-液相分離) 。要は、溶けている生体分子の濃度や構成による (脂質膜によらない) パーテーション分けが細胞内には沢山あるんやで、というコンセプト。ウイルス感染、免疫、アクチン動態から何から。。。「この現象も、実はLLPSなんやで!」といった感じの論文が多く出ている中、今回の論文は、LLPSの老舗、はしり (発見から30年以上!!) であるnSBの機能を初めて明らかにしました、というものです。

 

とりあえず、面白かった!!って感じです。セントロメアみたいに、超・重要な機能を持った分子であっても、他の機能を獲得しうる。細胞を動かす機構は、とってもフレキシブルに、ダイナミックに変遷しているんやなぁ、と。

 

あと、データきれい!!という感想。洗練されてる感あります。オミクス解析 --> 候補同定 --> 仮説の確認 --> 機能同定という黄金パターンですね。わかりやすい流れ。

 

きになるのは、HSAT III の進化について。

ヒト特異的 = 獲得してまだ日が浅いのに、なんでこんなキッチリとした機能を獲得し得たのか?

他の動物では代替のlncRNAが存在するのか?

HSAT IIIの機能は個体の生存に重要なのか?

HSAT IIIに自然選択圧はかかっているのか?

こなへんが気になりました。

 

あと、最近よく見られる、熱応答性の現象 (ストレス顆粒とか) って、実際に細胞が生体内で生活する上で役に立つ場面あるでしょうかね…

お薬が使える近代のヒトでも無い限り、体温が42度とかに達しちゃったらもう割と手遅れな感じがしなくもないのですが…

 

何にせよ、スゴイロンブン。面白かった。