注射型エネルギー非依存性ナノアンテナは、哺乳類に近赤外線の視野を付与する
リンク
https://m.youtube.com/watch?v=_8SjeKEcp9I
概要
哺乳類がものを見るとき、網膜上の桿体細胞が可視光線を感知して反応することによって光刺激の情報が視神経に送られる。
桿体細胞が光を感知する際、”Outer segment”に豊富に存在するロドプシン(オプシンというタンパク質とレチナールという化合物の複合体)が光子のエネルギーによって構造を変化させる必要がある。
赤外線は、可視光線よりも長波長の(=エネルギー量が小さい)光なので、ロドプシンの構造変化は起きない。
なので我々哺乳類の目は赤外線を感知する事は出来ないのだ。
筆者らは、赤外線によって励起され、可視光線を放出するナノマテリアルを開発し、さらにこれを光受容体保持リンカーを付与した。
このナノマテリアルをマウスの網膜上に注射したところ、顕著な副作用も無く、2ヶ月以上安定して網膜に定着した。
さらに、行動学試験などにより、ナノマテリアル注射を受けたマウスは、近赤外線を感知することができ、さらに近赤外線で描出された複雑なパターンも認識することができた。
感想
「未来かよ…」というのが率直な感想。
攻殻機動隊とか虐殺器官とかにいかにも出てきそうなSFの世界の技術が論文として発表されている、という衝撃。
彼らは軍用技術への活用に意欲的な様で、アブストラクトの項を「今回我々が開発した近赤外線視野を付与する技術は、一般的市民向けのアプリケーションから軍事用途まで、あらゆる方法で活用できるぜ」と結んでいます。
ここまであけっぴろげに軍事転用への可能性を明言した記述あんま見たことなかったので、カルチャーショックでした。
今回彼らは桿体細胞にナノマテリアルを保持する技術から開発したわけで、この発表が視野操作技術の発展に与える寄与は大きそうですね。最近ではips細胞由来角膜組織の移植を成功させていますし、視覚障害一般が治療可能になる未来がすぐそこまで来てる気がします。未来…
lncRNAから構成される核ストレス小体はSRタンパク質のリン酸化を通してスプライシングを制御する
論文リンク :
動物の体を構成する細胞の核の中には、ゲノムDNAがタンパク質との複合体 (クロマチン) として収められている。ゲノムDNAは、タンパク質やRNAといった細胞を構成するメインとなる部品の設計図と言える。とっても大事である。とっても大事なので、細胞が分裂する時、クロマチンは2つの娘細胞のもとに正確に引っ張られ、分配される必要がある。この取っ手となる部分がセントロメアである。
セントロメアは、その重要な機能の割には動物種ごとに多様である。ヒト特異的なセントロメアであるHSAT IIIは、熱や浸透圧ストレスに際してlncRNA (long non-coding RNA, タンパク質をコードしていない長鎖RNA) を発現し、核内に核ストレスボディ (nuclear stress body, nSB) を構築することが以前から知られていた。今回筆者らは、nSBがスプライシング制御因子であるSRタンパク質の脱リン酸化の”反応場”として働き、様々な遺伝子の発現を制御することを明らかとした。
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最近、とってもホットなLLPS (liquid-liquid phase separation, 液-液相分離) 。要は、溶けている生体分子の濃度や構成による (脂質膜によらない) パーテーション分けが細胞内には沢山あるんやで、というコンセプト。ウイルス感染、免疫、アクチン動態から何から。。。「この現象も、実はLLPSなんやで!」といった感じの論文が多く出ている中、今回の論文は、LLPSの老舗、はしり (発見から30年以上!!) であるnSBの機能を初めて明らかにしました、というものです。
とりあえず、面白かった!!って感じです。セントロメアみたいに、超・重要な機能を持った分子であっても、他の機能を獲得しうる。細胞を動かす機構は、とってもフレキシブルに、ダイナミックに変遷しているんやなぁ、と。
あと、データきれい!!という感想。洗練されてる感あります。オミクス解析 --> 候補同定 --> 仮説の確認 --> 機能同定という黄金パターンですね。わかりやすい流れ。
きになるのは、HSAT III の進化について。
ヒト特異的 = 獲得してまだ日が浅いのに、なんでこんなキッチリとした機能を獲得し得たのか?
他の動物では代替のlncRNAが存在するのか?
HSAT IIIの機能は個体の生存に重要なのか?
HSAT IIIに自然選択圧はかかっているのか?
こなへんが気になりました。
あと、最近よく見られる、熱応答性の現象 (ストレス顆粒とか) って、実際に細胞が生体内で生活する上で役に立つ場面あるでしょうかね…
お薬が使える近代のヒトでも無い限り、体温が42度とかに達しちゃったらもう割と手遅れな感じがしなくもないのですが…
何にせよ、スゴイロンブン。面白かった。
概日リズム制御因子であるBMAL1とREV-EEBaはフラビウイルスの感染を制御する
論文のリンク
https://www.nature.com/articles/s41467-019-08299-7
ヒトから植物に至るまで、遍く生物には「概日リズム」という24時間周期の生体時計が備わっており、免疫や代謝といったあらゆる生理的機能の活性を摂動させている。
概日リズムの周期は、CLOCKやBMAL1といった「circadian clock components 」と総称されるタンパク質たちが下流遺伝子の発現を制御することで作り出すことが知られている。
2017年のノーベル医学賞にもなった概日リズム。近年とってもホットな領域ですが、概日リズムとウイルス感染の関連はこの論文がお初らしいです。なんか意外。
この論文のポイントとしては、
- 時計分子であるBMAL1とERBaがフラビウイルス科に属するヒト肝炎C型ウイルス (HCV) やデングウイルスを抑制することを発見!
- これには、接着因子や脂質代謝など、様々なパスウェイが背景にあることを発見!
- ERBaのアゴニストによってフラビウイルスの感染をコントロール出来ることを発見!
などが挙げられます。特に3は、最近のウイルス学分野の論文でよく見る展開ですね。「この現象は新しい治療法のターゲットにもなり得るから、臨床医学的にも大事だぜ」という。
個人的に気になることとしては、HCV感染や脂質代謝を制御するmiR122には敢えてあまり突っ込まず、どころかfig7のGraphical abstractからもオミットしちゃってる点でしょうか。新しい現象を見つけた時、その分子機構が既知のものならインパクトが下がっちゃう気がするのでクレバーな判断なのかもしれませんが…
まぁそれでも、マイルストーン的なスゴイロンブンである事は間違いないと思います。近いうち、ウイルス学でのディスカッションにおいて、「アッセイした時間」が重要になるのかも知れないですね。そうなったら学生は死にますが…